歴史シリーズ その54  技術から見た日本の古代史

技術から見た日本の古代史

 技術の発展は政権の交代や動乱を引き起こす。日本の歴史の動乱期もその例外ではない。逆にいえば、技術から時代の政治状況を推察することも可能である。特に大規模な建築土木は、その動員能力を物語るに格好の資料となる。
 日本の歴史上、最初の大きな技術変革は3世紀頃の稲作の導入である。稲作の導入は単に農耕社会への移行を意味するものではない。建築土木を中心に武器を含めた道具の開発などの大きな技術革新が必要である。少し後の時代の遺跡ではあるが、登呂遺跡にみられる高床式倉庫や水路は、その技術の結晶だ。
 それ以前の縄文文化も稲作に適さない東北を中心にそれなりの高度な技術革新を遂げていったことが平成になってから発掘された山内丸山遺跡などからうかがえる。その流れはずっと後の時代までなにがしらの影響を及ぼしてきただろう。しかし、後の結果からみれば、表面の社会から埋没していった縄文文化に対し、九州の一地方から数世紀をかけて北海道まで制覇していく稲作文化(弥生文化)がどれほどの技術革新であったか、理解できる。
 ただし、稲作導入当初の建築土木技術はまだまだ一集落程度の動員能力に裏打ちされたものであったことが、遺跡から推察できる。従って、当時の政治権力も集落程度に限定されたものであり、地域を統一する政権のようなものではないと考えるのが自然だ。
 3世紀に北九州に上陸した稲作を元とする技術革新は、その後順次東進する。そして、4世紀に入ると集落単位をベースにした技術がもう少し大きな単位、例えば、平野単位とか盆地単位に進化してくる。
 この時代の遺跡は近年まであまり発見されなかったが、九州での吉野ケ里を最初に、各地で発見されるようになった。近畿、出雲などで同規模の遺跡が発見され、高楼などの新しい遺跡が発見されてくる。古墳なども、各地で同規模の大きさのものが建設されている時代である。
 しかし、注意すべきは、けっして一つの地域が他を圧倒するような状況にないところである。詳細な状況をみれば、例えば古墳の様式をとれば、前方後円墳の普及だとか前方後方墳や円墳の衰退などといった変動はあるものの、基本的には各地の技術にさほどの差はない。このことは裏返して見れば、技術交流による技術の発展で様式の変動はあっても、それぞれの勢力が基盤とする地域の大きさ、すなわち政権の大きさという意味では大差ないということを表現している。謎の4世紀というのは、そういう時代だったと考えるのが自然だ。
 遺跡として、他を圧倒するような存在がはっきりしてくるのは、5世紀の河内平野である。面積としては世界最大とされる(伝)仁徳天皇稜など、あきらかに他を圧倒する動員能力に裏づけされた技術による巨大施設が建設される。これは、河内平野に誕生した勢力が明らかに他を圧倒するだけの力を持ったということであり、当然、その勢力が他も支配したか、少なくとも勢力圏においたと見るべきだろう。
 河内平野の勢力の技術力はすばらしい。中でも、鉄器を中心とする武具や馬具は、それまでのものと大きな技術的な差をみせつけている。そして、なによりも特筆すべきは、巨大古墳造営を支えたであろう測量や建設技術。動員能力と系統だった組織があって初めて可能なことである。一説には、この勢力は淀川の流れを変えるほどの治水技術をもっていたとさえされる。これほどの技術的な革新が行われるのは、後の日本史でも、明治維新、戦国末期、鎌倉初期、天平時代、そして飛鳥時代くらいではないか。
 この巨大古墳を中心とする遺跡は、忽然と河内平野に登場する。そして、その他の地域にはこれに匹敵するような遺跡はない。このことは、明らかにこの勢力が河内平野で大きくなり、最初から河内平野を拠点としていたことを物語る。どこかの勢力が巨大となって、その根拠地を移転してきたというのは不自然である。つまり、北九州などの勢力が巨大となり、河内平野にやってきた訳ではないということではないか。
 ただし、5世紀かた7世紀にかけては、まだ各地にそこそこの勢力と思われるような遺跡がみうけられる。河内平野を中心とする勢力が段違いの実力を示して君臨していたのは事実であろうが、各地には、3世紀から4世紀にかけて成長してきた勢力が、それなりの規模で存在していた可能性が高い。彼らは河内平野の勢力下に入りつつ、それなりに地域の統括者でもあったのだろう。
 こうした勢力が完全に河内平野の政権、及びその後継政権である中央政権に組み入れられていくには、まだ時間がかかる。もっとも遅いのは、蝦夷(北海道)と琉球(沖縄)であり、これは明治維新を待つ。しかし、東北なども平安時代の度重なる遠征(坂上田村麿、源頼義、義家など)を経て、鎌倉時代始めの源頼朝の奥州制圧でその勢力下に入る。関東や越の国も平安時代に勢力下になるようである、そして、在地勢力の多くは、その過程で滅ぼされたり、あるいは在地の官僚として組み込まれていくようだ。


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